夏は、1年で1番良く読書をする時かもしれない。
出版社の文庫のフェアもあったりして、新しい本に出会う機会も増えるし。

暑くて何もしたくない時、少しでも涼しいところで、時にはじっとり汗に耐えながら…まったく逆の環境だけど、それでも…読書をして過ごすのは夏の至福。



今夏いちばん清々しく読んだ作品は、これ。

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「まぐだら屋のマリア」 原田マハ

東京の老舗料亭で修行中の青年・紫紋は、ある事件をきっかけに人生に絶望、終わりの場所を求めて彷徨い、「尽果」というバス停に降りたつ。その先にあった定食屋「まぐだら屋」、そこに集う人々。様々な生き様や心模様に触れるうちに再生していく紫紋の成長の物語。


まず、引き込まれるのは料理の描写。
主人公は料亭で修行の身なのだから、繊細かつ優美な料理が作れなくてはならない。また心底ほっとする家庭料理も、この物語では大事な要素。それは徹底的に人の手で磨かれた調理場のように清らかで、食材は潤い艶めいていて、包丁の音や湯が沸く音が小気味よい… 脳内に生き生きと再生される調理の姿や料理の描写。

食べることは生きること、というけれど、美しい料理のシーンは、読んでいても生命力が沸いてくるというか。 読者が元気になれる。

そういえば映画でもこんな気分があったな。
そうそう、「かもめ食堂」だ。


そして、登場人物は、みんな、優しい。
誰も、抱えている心の傷には触れない。そして、目の前にいる素直な姿を肯定して接してくれる。
これは本当に高等な対人術だ。わたしにはなかなかできない。

でも、個々の問題は、目をそらして生きるのではなく、常に向き合うこと、時間はかかるかもしれないけれど超えていける、いかなくてはならないことも、そっと伝える。


優しい、優しい、気持ちになれました。






そしてもう1冊、こっちはものすご〜く後味が悪い。

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「彼女は頭が悪いから」  姫野カオルコ

ごく普通の家庭で育ち女子大に通う女の子と、申し分ない家庭環境でエリートとして育てられた東大に通う男子学生、出会った2人は純粋に惹かれ合い、恋愛を育んでいくはずだったのに…


実際に起きた、東大生による集団暴行事件からのフィクション。
けれど、読んでいると現実と創造の境界がわからなくなって混乱する。
どんどん暗い気持ちになっていく。

誰もがもつ弱さやずるさ、コンプレックスが、現代という土壌で描け合わさると、思いやりも優しさのカケラもない、自意識過剰で自己防衛が最優先し、人を優劣で判定する社会が実在する、
それは自分の身の回りにも。自分も含めて。

だからだから、ものすごくざわつく。



ざわざわすることも大事。考えることを、忘れないように。




次はどっちの方向に心が振れる物語にしようかな…

晩夏もまた、読書は楽しい。